リバティで朝食を

ワーホリ女子のひとりおしゃべり

隣の海は青い

パッキングがすすまない。

 

単純に荷物が多いからなのだが、荷物が減らせないのは、イギリスで何が必要なのか、何なら現地で調達できるのか、いまいち確信が持てないからだ。


特に悩ましいのは基礎化粧品だ。

アイライナーとかアイシャドウとかの色物はまだいい、自分に合うものを店頭で探すのもそんなに大変ではないだろう。

でも基礎化粧品は!自分の肌質に合うかどうかとか!ニキビが出ないかとか!乾燥しないかとか!確かめるのに長い時間がかかる上に、合わないとてきめんに自分の肌が荒れる。

この世で結婚相手の次くらいに捜索と判別が難しいジャンルである。

 

というわけで、異国の地で基礎化粧品難民になるのを防ぐため、私は全ての口コミとバズりの最終集積地、YouTubeの門を叩いた。


日本語で「毛穴 洗顔」などと検索すると、美容系YouTuberがち○れのコールドクリームやビ○レのおうちdeエステ(緑)を紹介する動画がずらっと並びますよね。

英語で検索すれば、英語圏でのおすすめコスメの紹介動画があがってくるのだろう。


そう思っていた時期が、私にもありました。(お食事中の方はここから先の閲覧をご遠慮ください)


…いいですか?私は甘かった。「blackhead wash(毛穴の黒ずみ 洗顔)」って検索してみたらだね……

鼻の角栓をにゅるにゅる押し出す動画ばっかり出てくるの。もしくは「なあ、それ角栓じゃなくて粉瘤じゃないのか?」って問いただしたくなるような針とメスを使った手術風景。

違うんだ、私が観たいのは「今回おすすめするのは、このガスールパック(例)」って言いながら、伸ばした手のひらの前で商品をアップにしてくれるようなやつなんだ。


絶望的な気分になりながら検索画面をスクロールしていくが、延々と鼻の角栓押し出し動画が続く。

たまーに出てくるマシな動画は、日本の美意識高い系の間では御法度の、剥がすタイプの毛穴パックの使用動画だ。もちろんサムネイルは剥がした後のパックに付いている角栓のアップ。

……何なの?

君たちはそんなにまじまじと鼻の角栓を見たいの?


それでもめげずにスクロールを続けていたら、「日用品を使って毛穴をきれいにするTips」みたいな動画を見つけた。

そうだよ、これこれ。こういうのだよ私が欲しい情報は。ほっとしながら動画をクリックする。


「用意するものは、水と重曹と歯磨き粉。これを混ぜ合わせたものを鼻に塗って、歯ブラシでこすります…」


前言撤回。正気か?それに行き着く前に何かもっとマシな毛穴対策はなかったのか。それとも英語圏には有能なクレンジングジェルとかスクラブとかガスールパックとかが存在していないのか?


そんなわけないよな。少なくともL○shは存在してるもんな。知ってるぞ。

つまり存在していないのは、まともな美容系YouTuberの方だ。


日本の美容系YouTuber界の闘いは熾烈である(たぶん)。

日夜、SNSや口コミサイトをチェックし、話題の商品を買い揃え、実際に使う様子を顔出しで撮影し、バラエティ番組みたいなテロップまでつけて、迷える子羊たちのために公開しているのだ。善行を積みすぎである。聖人として法王庁に認可してもらっていいくらいだ。

そこまでしても、美容系YouTuberとして覇権を握れるのはほんの一握りの人たちだ。


それに引き換え、英語圏の美容系YouTuberはどうだ。というかそもそも「美容系YouTuber」という概念もまだ存在していないのではなかろうか。

角栓押し出し動画より、「○○のスクラブです!いきなりごしごし擦るよりも、こうやって少しずつ水を加えた方がいいですね」「洗い上がりはさっぱりです」みたいな紹介動画をあげた方が、よっぽどバズる気がするけれど。でもそのアイデアは、少なくともまだ一般的ではないということなんだろう。


自分では当たり前と思っていて日ごろ特別意識もしていないところに、ブルーオーシャンは広がっているものらしい。

イギリスでなら、美容系YouTuberとして簡単に覇権が取れそうである。


YouTubeばっかり観ているせいで、 パッキングは全然すすんでいないのだが。